colorful! 一筆献納2022

試し読み動画(YouTube) 電子版(note) 150円 ※冊子版完売

2022年版のテーマは「虹を構成する7色(赤・橙・黄・緑・青・藍・紫)のうちの1色以上を、作品のモチーフに使用して下さい」。
カラフルな表紙に似つかわしい楽しい話が多めになりました。
コドウマサコ「紫姫と泉の蛙」

 昔々、自然豊かなある小さな国にたいそう美しいお姫様がいました。お妃様譲りの薄金の豊かな髪と美貌、澄んだ紫水晶のように神秘的な瞳。三人姉妹の末っ子として生まれたお姫様は紫姫と呼ばれ、皆から可愛がられて育ちました。
 けれど十三歳になる頃にはお姉様方が嫁いでしまい、残された紫姫は寂しい毎日を過ごしておりました。お姉様方と楽しんだ森の散策も、ひとりではあまり楽しくありません。
 ある暖かな春の日のこと、紫姫は父王様から贈られた金の毬を手に、泉のほとりでひなたぼっこをしておりました。金の糸を幾重にも編み込んだ毬は高く放り投げるとキラキラと輝き、放り投げては受け止め、放り投げては受け止めるのがマイブームだった時期もあるにはありましたが、残念ながらそんな時期は五年ほど前に通り過ぎてしまいました。女の子は早熟なのです。
 大岩にもたれてうとうとしかけた時、紫姫は小さな水音に気がつきました。うっすら目を開けると泉に水紋が広がっています。いったい何かしらと身を乗り出した紫姫はそのままの姿勢で凍り付きました。
野間みつね「色彩の子らビフラストの不思議眼鏡」

『今度こそ、って遺跡だよ。割と大きな本棚があって、ぎっしり本が詰まってたって話だから』
 ……という情報を買い入れて辿り着いた古代魔道王国時代の遺跡は、ケルリ王国の地方都市サルティス北部近郊に広がる、見渡す限りの荒れ地の地下に隠れていた。あと半日も北進すれば“崩壊の砂漠”に――かつて古代王国の都が何処かに存在したと伝えられる広大な砂漠地帯に入ってしまう、そのぎりぎりの地点であった。
「此処までは情報通りか……」
 殆ど土砂に埋もれていた金属製の落とし戸を開け、覗き込むと勝手に魔法の明かりが点る石段を慎重に確かめながら、猫耳ハーフキトゥンのピクシャが呟く。ケルリの都ニフティスの盗賊シーヴズギルドに所属している彼女は、猫耳猫目のキトゥン族の血を引く愛らしい見た目からは想像が付きにくいが、かなり腕利きの盗賊シーフであると同時に、情報の売り買いを手掛ける情報屋スカウトとしても優れている。少なくとも、私セルリ・ファートラムの元へ彼女が持ち込んできた情報が“完全な外れ”に終わったことは、一度もない。
「トラム、魔法の罠はなさそう?」
皐月うしこ「明日、誰かのオトシモノ」

 黄色の長靴が欲しかったことを道路脇に放置された片方だけのそれを見て思い出した。
 持ち主は知らない。明らかに子供用のサイズをしているから、きっとどこかの小さな足が落としていったのだろう。
 雨はすでに止んでいる。ときどき車が通る程度の閑静な住宅街の一角。水はけがいいのか、悪いのか。よくわからない公園と道路を掛けるグレーチングの上に捨て置かれたそれは、まだ自分は役割を果たせるとでもいいたげに自己を主張していた。
 水たまりのある世界で忘れ去られた存在。
 本来なら彼らの役割が最大限に発揮されるだろう世界で、それは哀愁を漂わせて横たわっているのだから同情を誘う。
「んー」
 長靴にとっては不幸中の幸いか。本来納めるべき足の大きさではない人間に見つかって、あわよくばもっと目立つ場所に自分を置いてくれと言っているように見えないこともない。長靴の思惑通り、たしかに大人の自分ならばもっと目立つ場所に「ここにありますよ」と置き直すことが可能だろう。
島田詩子「暗がりに泳ぐ」

 やっぱりこうなってしまった。
 夕方になって客先から急ぎの連絡が入ってきて、その対応の合間に周囲を見渡すと誰もいなくなっていた。
 照明も自分がいる区画以外は消されている。窓のブラインドはすべて降ろされていて、外の明かりも入ってこない。一人だけ取り残されていることをあからさまに見せつけられて、溜息が出てしまう。
 先刻、最後の詰めの内容をメールしたので、先方が上長に内容を確認してもらっているのだろう。メールの返信がなかなかこない。
 同僚が、帰りしなに差し入れだと言って机の端に置いていってくれた小さな缶詰を取り上げる。白いラベルに黒い字で「試供品」とでかでかと書いてあるだけのその缶はひどく軽く、残念ながら中身は食べ物ではなさそうだ。
 それでも返信待ちの時間つぶしにはなるので、中を見て見ようとプルトップを引き上げてみる。
 少し蓋が開いたところで、なにかがぬるりとはみ出してくる。
藤木一帆「ゲーミングバトラー・ルキ」

『拝啓
 どうせ買うだけのお金を貯められないような生活をしていることだろうから、アンドロイドメイドをお前に送ります。
 上手く使うように。

追伸
 多少難はあるが大変優秀なので目を瞑るように。

 かしこ  父より』

「あんのクソ親父いいいいいいいいいいいいいい……」
 届いた手紙を握りつぶして、思わず俺は唸り声をあげた。
 だいたいどこから突っ込めばいいのか意味不明なことを繰り返す親ではあったが、こうまでとは思っていなかった。少なくとも、もう少しくらいまともだと思っていた。
 それがなんだこれは。どういうことだ。
 俺はしばらく手紙を握りしめたまま、呆然と目の前の「男」を眺めていた。